積極場面と消極場面で、人間の脳は逆の誤りを起こす
1.なぜ経営判断は難しいのか
経営判断は「数字」と「感情」の両方で行われます。 しかし、人間の脳には“クセ”があり、 積極場面と消極場面で、真逆の誤りを起こすことがよくあります。
- 攻めるべき時に弱気になる
- 止めるべき時に楽観してしまう
これは能力の問題ではなく、脳の構造的な反応です。
2.経営判断の誤りは2つの場面で起きる
| 局面 | 数値(定量的) | 感情(定性的) |
|---|---|---|
| 積極場面 (攻め) | 本当は攻めてOK 粗利・資金・需要が十分 | 弱気になる 恐怖・過去の失敗 |
| 消極場面 (守り) | 本当は止めるべき 赤字・不採算・資金枯渇 | 楽観してしまう サンクコスト・現実逃避 |
3.積極場面:数字は良いのに、感情が弱気になる
→「本当は攻めるべきなのに、踏み出せない」
① よくあるケース
- 粗利率も資金繰りも問題ないのに、新規採用をためらう
- 需要が明らかに伸びているのに、設備投資を先送りする
- 数字上は十分に回るのに、広告費を増やせない
② なぜ起きるのか(心理のメカニズム)
- 損失回避バイアス 人は「得をする喜び」より「損をする痛み」を強く感じる。 → 数字が良くても「もし失敗したら…」が勝つ。
- 現状維持バイアス 現状を変えることに脳が抵抗する。 → 攻める判断は、脳にとって「危険」に見える。
- 過去の失敗の記憶が強く残る 以前の投資失敗がトラウマ化している。 → 数字より感情が優先される。
③ どう修正すべきか(行動指針)
- 数字がOKなら、まず「小さく踏み出す」 例:採用ならアルバイトから、広告なら少額テストから。
- 意思決定を「未来の数字」で評価する 「今の恐怖」ではなく、「半年後の利益」で判断する。
- 「攻めるべき条件」を事前に決めておく 例:粗利率◯%以上、預金残高◯ヶ月分、など。 → 感情に左右されず、条件を満たしたらGO。
4.消極場面:数字は悪いのに、感情が楽観する
① よくあるケース
- 赤字事業を「もう少しで黒字化する」と言って続ける
- 明らかに回収不能な売掛金を「待てば払ってくれる」と信じる
- 採算の悪い取引先を切れない
- 在庫が積み上がっているのに仕入れを止められない
② なぜ起きるのか(心理のメカニズム)
- サンクコスト効果 すでに投じたお金・時間を無駄にしたくない。 → 数字が悪くても「ここまでやったのに…」と続けてしまう。
- 楽観バイアス 悪い情報を軽視し、良い未来だけを想像する。 → 「きっと良くなる」という感情が数字を上書きする。
- 現実逃避 数字を見ると精神的に辛いため、判断を先送りする。 → 問題が大きくなるほど、見たくなくなる。
③ どう修正すべきか(行動指針)
- 「撤退ライン」を事前に決めておく 例:3ヶ月連続赤字なら撤退、回収不能なら◯日で債権処理。 → 感情ではなくルールで止める。
- サンクコストを「ゼロ扱い」で試算する 過去の投資は一切考慮せず、未来のキャッシュだけで判断する。
- 第三者(税理士)に数字を見てもらう 感情が入らない外部の視点が、撤退判断を助ける。
5.なぜ人は経営判断で誤るのか
行動経済学では、人間は合理的に判断しているようで、実際には脳の構造的なクセ(バイアス)に強く影響されるとされています。 その基礎となるのが、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンらが提唱したプロスペクト理論です。 この理論では、人は「利益より損失を強く感じる」「状況によってリスク選好が逆転する」という特徴を持つと説明されます。
特に経営判断に影響するのが、損失回避バイアス、サンクコスト効果、現状維持バイアスです。 損失回避バイアスとは、「得をする喜び」よりも「損をする痛み」を約2倍強く感じる性質で、これが「攻めるべき場面で弱気になる」原因になります。 一方、サンクコスト効果は、すでに投じたお金や時間を無駄にしたくない心理で、「止めるべき場面で続けてしまう」誤りを生みます。 さらに現状維持バイアスにより、人は変化よりも現状を選びやすく、数字が示す合理的判断よりも「今の安心感」を優先しがちです。 これらは誰にでも起こる自然な反応であり、経営者の能力とは無関係です。 だからこそ、数字(定量)と感情(定性)のズレを意識的に切り分ける仕組みが、経営判断の質を大きく高めます。
6.感情は「今の自分」を守り、数字は「未来の会社」を守る
- 攻めるべき時は、数字を信じて一歩踏み出す
- 止めるべき時は、感情を脇に置いて数字で切る
- 判断のズレは能力ではなく「脳のクセ」が原因
| 局面 | 数字 | 感情 | 起きる誤り | 必要な対策 |
|---|---|---|---|---|
| 積極場面 | 良い | 弱気 | 本来攻めるべきなのに止まる | 小さく踏み出す・未来数字で判断 |
| 消極場面 | 悪い | 楽観 | 本来止めるべきなのに続ける | 撤退ライン・サンクコスト排除 |
この切り替えができる経営者は、 事業の成長スピードが大きく変わります。
そしてその判断を支えるのが、数字を正しく読み解き、感情の揺れを整える「仕組み」です。
経営者は自分で判断を下す立場にあるからこそ、自分を管理するための「仕組み」づくりが必要です。
数字と感情のバランスを整える仕組みは、経営者自身を守り、会社を守り、未来の選択肢を広げます。
私たちは、その仕組みを一緒に作り、運用し、迷いが生まれる局面でも冷静に判断できる環境づくりを支えています。