経営判断の考え方

私たちの判断軸

経営判断は、経営者が何を大切にしたいかによって変わります。
目先の税額を最優先するのか、それとも将来の発展や安定を重視するのか、ゴールや優先順位が違えば同じ数字を見ても選ぶ判断は変わります。

経営や税務の世界には「間違いではない」処理が複数存在し、その中でどれを選ぶかによって、経営の安定度や将来の方向性は大きく変わります。
私たちは、単に合法かどうかではなく、方向性が合っているか、人が実際に動けるか、目指すゴールが現実的かという視点を重視して判断しています。

1. 合法性だけでなく、継続性を見る

制度上は問題なくても、毎年無理をしないと続かない処理は結果的に経営者の負担になります。
一時的な節税より数年単位で安定して使える方法かどうか、私たちは継続できる選択を優先します。

2. 税務調査の目線を常に意識する

税務調査は、特別な会社だけに来るものではありません。
だからこそ、「調査官から見てどう映るか」を常に意識しています。
理屈として通るかだけでなく実務として説明できるか、その視点が、将来の安心につながります。

3. 経営者の負担にならない選択を優先する

制度上は有利でも、管理が煩雑になったり日常業務の負担が増える方法もあります。
私たちは、「経営者が続けられるか」を重要な判断基準としています。
持続可能な形こそ、長く強い経営につながります。

4. 数字の裏にある構造を見る

数字は結果であり、原因ではありません。
売上・利益・税額の変化の背景にどんな構造があるのかを見ます。
一時的な数字に振り回されず、判断の軸がぶれないよう整理します。

5. 攻める時は、理由をもって背中を押す

常に慎重な判断が正解とは限りません。
条件が整っていると判断した場合は、なぜ今動くべきかを説明したうえで提案します。
「なんとなく」ではなく、根拠を共有したうえで進めることを大切にしています。

この考え方は、制度を知っているだけでは身につきません。

私たちは、「今だけ正しい判断」ではなく、「これからも支え続けられる判断」を大切にしています。

経営判断の「定量×定性」可視化モデル

経営判断の精度を上げるにはどうすれば良いでしょうか?その答えは判断材料をしっかり可視化して解像度を上げていくことです。
本モデルは、 定量(Quantitative)× 定性(Strategic)で状況を可視化し、進む・止めるの判断を論理的に説明できるよう設計しています。
この評価プロセスを用いれば、感覚的な要素(定性要素)を可視化(数値化)することが出来ます。

1. 評価モデル(例)の全体像

本モデルは、「定量要素」と「定性要素」を組み合わせたゲート(足切り)条件付き加重平均方式を採用しています。
特に定性的な要素は、意思決定への影響が大きいため評価を重く見ています。

評価の基本ルール
  • 定量要素(5項目):現在の会社の耐久力・収益性を5段階で評価。(Quantitative)
  • 定性要素(3項目):経営者の意思や組織力を5段階で評価し、さらに影響度を考慮して重み付け。(Strategic)
  • 総合判定:全要素の加重平均値が5段階で3.5以上なら「採用」3.5未満は「保留」または「不採用」、ただし個別要素が足切り点以下の場合は即不採用。

    【 総合判定=∑(各評価×重み)​/∑重み 】
加重平均値総合判定
3.5以上採用
2以上3.5未満保留
2未満不採用

2.定量評価の5要素

要素説明指標の例
Q1.収益性稼ぐ力があるか売上高経常利益率
Q2.安全性潰れない会社か自己資本比率
Q3.返済能力借金を返せるか債務償還年数
Q4.生産性効率よく働いているか労働生産性
Q5.成長性将来伸びるか売上高増加率

3.定量評価5段階の定義

点数定義
5 優れている
4良い
3標準
2あまり良くない
1良くない

※原則足切りなし


4.定性評価の3要素

要素定義
S1.経営者の意思・覚悟重み(倍率)5倍、足切り評価2
S2.実行体制・組織力重み(倍率)3倍、足切り評価2
S3.事業の将来性・方向性重み(倍率)2倍、足切り評価1

5.定性評価5段階の定義

S1:経営者の意思・覚悟
点数定義
5 判断が速く方針に一貫性があり、環境変化があってもやり切る姿勢が明確
4基本方針は固まっており、強い意志が感じられる
3意志はあるが、状況によって慎重になる場面がある
2判断にあたって迷いが多く、あまり覚悟が感じられない
1判断にあたって消極的であり、外部要因を重視する傾向が高い

※ S1が2以下:即不採用

S2:実行体制・組織力
点数定義
5 役割分担が明確で、経営者不在でも回る体制
4主体者が明確で、多少の属人性はあるが機能している
3動くが、特定の人に依存しており負荷が高い
2体制が弱く、計画倒れになるリスクが高い
1実行主体がなく、事実上動かせない

※ S2が2以下:即不採用

S3:事業の将来性・方向性
点数定義
5 市場・強み・方向性が明確で、成長余地が大きい
4課題はあるが、現実的な伸び代がある
3方向性が定まっておらず、再設計が必要
2市場環境が厳しく、抜本的な見直しが前提
1構造的に成立しない、または縮小不可避

※ S3が1:即不採用


6.本モデルの意義

  • フレームワークはペアワイズ比較を用いた階層分析法(AHP)により重み付けをした多基準意思決定(MCDM)を採用します。
    これは主観的になりやすい定性要素について、各要素を一対比較し重要度が高い要素に重み(倍率)を付けることにより定量化し、総合的に判定することによって、単一の基準から判定するよりも精度が高くなる手法です。
  • 定量要素に重みを付けず定性要素にのみ重みを付ける理由は、「優れた経営者の意思と実行体制があれば、数字は後から変えられるがその逆はない」という実務上の真理に基づいています。
    また、定性要素にのみ足切り(即不採用)という安全装置を設けている理由も同様で、失敗の原因は「人や環境」にあることが多いからです。

7.定性要素の重み(倍率)

① 比重をどう決めるか(考え方の軸)

軸a:失敗要因としての影響度
その要素が欠けた場合、数字が良くても案件が破綻するか?
軸b:修正可能性
後から改善できるか、それとも後戻りできない要素か?
軸c:税理士としての介入可能性
助言や管理で改善可能か、経営者依存が強いか?

この3軸を満たすほど、倍率を高く設定する合理性があります。

② 定性3要素の推奨倍率(1〜9倍)

S1:経営者の意思・覚悟~推奨倍率:5〜9倍
・失敗要因としての影響度:極めて高い
・修正可能性:ほぼ不可
・介入可能性:低い(本人次第)

経営者本人の意思決定や覚悟は、数値や計画よりも結果を左右するケースが多く、後から修正することがほぼできないため、最も高い重みを設定します。

S2:実行体制・組織力~推奨倍率:3〜5倍
・失敗要因としての影響度:高い
・修正可能性:一部可能
・介入可能性:中程度(助言・設計で改善余地あり)

実行体制は、経営者ほど絶対条件ではないものの、体制が弱い場合計画は机上の空論になります。一方で改善余地があるため、覚悟ほどは重くしません。

S3:事業の将来性・方向性~推奨倍率:2〜4倍
・失敗要因としての影響度:中〜高
・修正可能性:比較的高い
・介入可能性:高い(戦略転換・軌道修正が可能)

将来性は重要ですが、市場や戦略は修正が可能なため、重みは中程度に設定しています。

③ 倍率設定の理論的・実務的根拠

根拠a:AHP(階層分析法)
・定性評価を数値化する代表的手法
・重要度の差を 1〜9 で表現

AHPでは、判断基準の重要度差を1〜9段階で表します。

根拠b:戦略コンサル・投資評価の実務
・投資判断やM&Aでは「経営者」「実行力」が 定量評価を上書きする ケースが多い
・実務では、定量:参考、定性(人・意思):Go / No-Go、という使い方をされる

実務では、数字が良くても、経営者要因だけで案件を見送ることは珍しくありません。

根拠c:行動経済学・組織論
・意思決定の質は「情報量」より「意思決定者の姿勢」に依存
・組織が動く最大要因はトップの強い意思

経営者要素を重く評価することに合理性があります。

④定性評価の重み付けまとめ
定性要素倍率例重み付け理由
経営者の意思・覚悟5〜9倍修正不能・結果への影響最大
実行体制・組織力3〜5倍成否に直結、改善余地あり
事業の将来性・方向性2〜4倍重要だが方向修正が可能

※ AHPの重要度スケールと実務判断を基に設定


8.実務での活用事例

① 新規事業・新サービスを始めるかどうか

「今やるべきか、もう少し待つべきか?」
「数字上はいけそうだが、本当にやり切れるか?」

② 人を採用するか・増員するか

「忙しいが、本当に今増やすべきか?」
「採用しても活かせる体制か?」

③ 借入・設備投資をするかどうか

「資金繰りは回るが、借金を増やしてよいのか?」
「この設備、本当に必要か?」

④ 不採算事業・取引をやめるかどうか

「数字は悪いが、簡単にやめていいのか?」
「感情的に切れない」

⑤ 経営方針・事業の方向転換をするか

「今のままでいいのか?」
「変えるのは怖いが、このままも不安」

「決断そのもの」ではなく、「決断に至るまでの迷い」を整理できることで、自社に向き合い新しい気づきが生まれます。


Q1. 判断は税理士の意見に従わなければいけませんか?

A.いいえ。
最終的な判断は、あくまで経営者のものです。
私たちは、選択肢とそれぞれのリスクを整理し、判断しやすい材料を提供する役割だと考えています。


Q2. 慎重すぎて、チャンスを逃すことはありませんか?

A.常に慎重な判断が正解だとは考えていません。
条件が整っていると判断した場合は、理由を説明したうえで積極的な提案も行います。


Q3. AIやツールは使わないのですか?

A.業務の効率化や情報整理には、AIやツールを積極的に活用しています。
その分、相談や判断といった人の関与が必要な部分に時間を使うことを大切にしています。


Q4. 他の税理士事務所との違いは何ですか?

A.制度の説明だけでなく、「どれを選ぶか」「なぜそれを選ぶか」まで一緒に考える点です。
判断の背景を共有することで、納得感を大切にしています。


Q5. 税務調査が心配な場合も相談できますか?

A.もちろんです。
日常の処理段階から調査の視点を意識し、後から慌てない対応を心がけています。


Q6. 相談内容がまとまっていなくても大丈夫ですか?

A.問題ありません。
話しながら考えを整理していく方が、結果的に良い判断につながることも多くあります。


Q7. この判断軸は、どんな顧問先に向いていますか?

A.短期的な節税だけでなく、中長期で安定した経営を考えている方に向いています。
考え方に共感していただける方と、長くお付き合いしたいと考えています。

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